自民党総裁選(2)

菅政権の実績と言えるのは、発足後1年でデジタル庁を創設したことなどが挙げられる。発足直後の携帯電話の料金の値下げ、国内の温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロにする方針を表明し、75歳以上の後期高齢者の医療費負担を引き上げ、最低賃金の引き上げを決めた。不妊治療の助成制度も拡充し、少子化が進む中で、将来世代のための政策を実現しようとした。新型コロナウイルス対策として推進したワクチン接種は治験を行うためにスタートが遅れ、1日100万件もできるとは誰も思っていなかったが、100万件を超えるペースまで進んだのは菅義偉首相が強い突破力で自治体を動かしたからだ。

一方、とにかく言葉にしない、語らない。聞かれたことに正面から答えない、論点を外すことが多い。菅義偉首相からは何を目標にしているのかということを全く聞けない1年だった。それは菅首相が単に口下手なのではなく、そもそも理念やビジョンがなかったからだと思う。全くないのかと言うとそうではなく「自助・共助・公助、そして絆」を掲げている。問題なのは過度の「自助」の重視だ。しかし、その理念によって公助は軽視されている。コロナ患者で自宅療養をしながら苦しんでいる人は多いが、公助を軽視したところからきていると思えてならない。

総理大臣に求められるものとして、リーダーシップ・理念、政策だと思うが現実は選挙の顔になるかどうかが最重要になっている。
各派とも一糸乱れぬ行動は事実上不可能だ。ある派閥幹部は「議員の生き死にがかかっているので、締め付けられない」と話す。総裁選は、首相が不出馬に追い込まれた新型コロナウイルスへの対応など、政策論争を通じて国のかじ取りを任せられるリーダーを生む好機といえるが、現状では「選挙の顔」選びが先行している感は否めない。
衆院選への小選挙区制導入を契機に派閥の力が弱まった上に、特に今回は衆院選が近いため選挙基盤の弱い議員が「選挙の顔」となる新総裁に期待し、派閥幹部の意向に応じない構えをみせているのだ。情勢は複雑化している。「一丸となってやるという動きは全くないようにみえる。今後の派閥の在り方も含めて大きく変わる総裁選になる」